計算戦隊シソクレンジャー
第1話 かけるの旅立ち


 ここにいるのは、積田かける17歳。
 そして、この国にいる5人の子どもたち。
 12歳を筆頭に、10歳、8歳、6歳、4歳。
 子どもたちは、日照りの貧困の中で飢えていた。
 頑張って畑を作り、ヒエやアワなんかを育てていた。
 わずかばかりの収穫で何とか飢えをしのいでいるのだが、
 日照りの中で、なかなか育たない。
 一方、かけるもまた育ち盛りで飢えていた。
 にも関わらず、心優しいかけるは、自分の貴重な食料をも子どもたちと分け合って食べていた。
 かけるも、自宅の庭で細々と作物を作っていた。
 そこで穫れたカボチャやジャガイモを、子どもたちの所へ持って行っては、一緒に食べていたのである。

 ある日のこと。
 かけるはいつものように、収穫したカボチャとジャガイモを袋に詰めていた。
「ええと、2、4、6、8、10、12。これで良し」
 そして子どもたちの所へ持っていく。
 せっせと雑草取りをしている子どもたち。
「おーい」
「あっ、かける兄ちゃんだ」
「かける兄ちゃーん」
「また作物持ってきたのー」
「嬉しいけど、兄ちゃんいっぱいお食べよー。育ち盛りだろう」
 子どもたちは、かけるが大好きである。
「ちょうどお昼だし、みんなで食べよう」
「やったー」

 そこへ、フラフラ歩いてくる男の影が見えた。
「あの人、どうしたのかな」
 バタンと倒れる男。
「わっ倒れた!」
「大変だー」
 走り寄る、かけると子どもたち。
 男は老人だった。竪琴を背中に背負っている。
「おじいさん、だいじょうぶ?」
「み、水…」
 慌てて老人を子どもたちの家に運び、僅かながらの水を飲ませる。
「大丈夫ですか?」
「う…助かった…ありがとう…」
 老人は何とか息を吹き返した。

「何があったんですか?」
「うむ、わしは世界中を旅する、吟遊詩人じゃ。
 この地方にやってきたが、ものすごい暑さにやられてしまい…
 その後は覚えてないんじゃよ」
「ここんとこずっと、ひどい暑さですからね」
「僕らは慣れたけどね」
「この辺りでは、いったい何があったんじゃ?」
「ここ『セキタ王国』は、以前は小さいながら潤っていた国だったんです。
 しかし5年前からここら一帯を襲った干ばつで、作物がなかなか穫れません。
 おまけに3年前に隣国が攻めてきて戦争が始まりました。
 幸い戦争は終わりましたが、国がすっかり貧乏になってしまって…」
「そうじゃったのか。
 それで、こんな小さな子どもまで働きに出て…。
 数学ワンダーランドへ行けば、この状況を何とかできるかも知れないよのう」
「数学ワンダーランド!?」
 顔を見合わせる、かけると子どもたち。
「それ、どこにあるの?」
「どんな国?」
「どんな物があるの?」
「おじいさん、行ったことがあるの?」
 色めきだつ子どもたち。
「まあ待て、話すわい。落ち着いてくれ」
 老人は、座り直して語り始めた。



 海も山も越えた、北の国。
 そこに数学ワンダーランドがあるという。
 わしは、残念ながら行ったことがないがのう。
 噂では、そこに行けば、どんな夢もかなうらしいそうじゃ。
 ところが、そこへ行けるのは、ごくごく限られた、選ばれた者だけだそうじゃ。
 なんでも、「加」「減」「乗」「除」の4つの計算力を具えた者にのみ、
 数学ワンダーランドへの道は開けるらしい。

「カゲンジョージョ?」
「『加』はたし算、『減』はひき算、『乗』はかけ算、『除』はわり算のことじゃ」
「うわっ、算数にがて!」
「お前さん」
 老人は、かけるに話しかける。
「ここは…『セキタ王国』だったな」
「そうですよ」
「セキタ王国と、その隣の割山国。
 わしはどうも、加減乗除と関係がありそうに思えてならないんじゃ」
「どうしてですか?」
「『積』というのはかけ算の答えのことじゃないかね。
 その隣に『割る山』があるということは、
 かけ算とわり算の関係ではないだろうか。
 わしがこの地に赴いたのは、その謎を解くためなのじゃよ」
「そういえば私の名前は『積田かける』、父は『積田 乗(ジョー)』ですから、
 少なくともこの国は、かけ算と何か関係があるのかも知れませんね」
「積田じゃと?もしやお前さん…!」
「ああ、申し遅れました。私はこの国の皇太子です」
「そうだったのですか!そうとは知らず、とんだご無礼を…」
「いや、それはいいんですよ」
「お兄ちゃん。王子なのに全然飾らずに、僕たちと食べ物を分け合ってくれるんだ」
「自分も育ち盛りなのにね!」
「優しいし、力持ちだし、勇気があるから、僕たち兄ちゃんが大好きさ」
「王子、今の話について、王家に何か伝わっているものはござらぬのですか?」
「いいえ、聞いたことがないんです。
 そうだ。父上に聞いてみたいと思います。
 ご老人もどうかご一緒に」
「僕たちも行くよ!」
かくして、かけると老人と子どもたちは、セキタ城へ行くことになったのだ。

 セキタ王国の王、積田 乗もまた、息子に負けず気さくで優しい人物であった。
 王妃はかけるが小さいときに病気で亡くなってしまった。
 かけるには、母の記憶がない。
 王は新しい王妃を迎え入れることなく、かけるに愛情を注いで育てたのであった。

「父上!私は数学ワンダーランドへ行って、国の民を救いたいと思います」
 かけるの話を聞いて、王は思い悩んだ。
「ならぬ!わしはお前を危うい目に遭わせたくないのじゃ!」
 しかし、老人、子どもたちも説得する。
「王様、兄ちゃんを行かせてあげてよ」
「兄ちゃんなら、きっとやり遂げてくれるよ」
「そりゃあ俺、兄ちゃんと一緒にいたいけどさ…
 でもワンダーランドの力があれば、みんなが幸せになれるんだろう…。
 みんなが幸せになれるまで、俺は兄ちゃんがいなくても我慢するよ。
「王様!」
「王様!」

「…わかったわい!」
 ついに王は折れてしまった。
 王は奥の間から、王家に伝わる家宝を持って来させた。



「古き言い伝えでは、加減乗除の4つの力は選ばれた者が
 1つずつ具えられるものだそうじゃ。
 そして、我が王家には、『乗』の力が伝わっている。
 それが、このマントと『×』のワッペンじゃ。
 これらを装着すると『カケちゃんマン』となり、
 乗の力を発揮することができるのじゃ」
「父上、なぜそれを今まで秘密にしていたのですか?」
「妻の…お前の母さんの遺言じゃ。
 お前はいずれ、この国の政治を行う身。
 二十歳になるまでは危ない目に遭わせてはいけないと、
 病床の中、うわごとのようにお前の身を案じていたよ。
 今までわしは15年間、その言葉を守り、乗の秘宝のことも黙っていた。
 そんなことを正義感の強いお前が知れば、
 ワンダーランドへ行きたいと言うに決まっているからのう」
「そうだったのか…母上…」
「しかしかけるよ。お前はよい友達をたくさん持っているのう。
 みんなが応援してくれているではないか。わしは羨ましいぞ。
 さあ、かけるよ!
 選ばれし者を見つけ、数学ワンダーランドを目指せ。
 そして、民のために必ず生きて帰ってくるのじゃ!」

 かけるは、マントとワッペンを装着してみる。
 見る見る体が収縮し、カケちゃんマンに変身!


「こ…これが、カケちゃんマン…」
「かわいい!」
「強いの?」
「兄ちゃん、これで乗の力がついたの?」
「兄ちゃん、2×3は?」
「6!」
「おぉー」
「すげぇー」
「これはすごい……っておいっ!そんなの変身してなくてもできるって」
「じゃ、234×7258は?…」
「………わからない」
「えぇーっ!」
「王様!この家宝、本当に大丈夫なの!?」
「王子。カケちゃんマンとなって乗の力を発揮するには、
 修行と経験が必要なようじゃの」
「えっ、父上、そうなのですか?」
「当たり前じゃ。本当に肝心なのはこれからじゃ。
 これから出会う幾多の困難を乗り越えてこそ、
 カケちゃんマンとしての真の力が発揮できるのじゃ。
 楽しいことばかりではないぞ。辛く苦しいことも訪れようぞ。
 それでもいくか、かける!?」
「…国の民の幸せがかかっているのです。行きます!」
「おお、かけるよ!それでこそ我が息子じゃ!!」

 かくして積田かける=カケちゃんマンは、
 数学ワンダーランドを目指して旅を始めることになった。
 城壁の前で、かけるを見送る王、老人、そして子どもたち。
「僕たちも一緒に行きたいけど…畑があるから」
「そうだ。兄ちゃんの畑、使わせてもらっていい?」
「それがいいよ!大事に育てるよ」
「お爺さんは?兄ちゃんと一緒に行くの?」
「いやいや、わしももう歳だからの。
 そろそろ旅をやめて落ち着こうと思ってたところじゃ。
 わしはここに残り、子どもたちと農業をしながら
 どうやったら作物がよりよく育つか考えたいと思うが、どうじゃ。
 王子や子どもたちに命を救ってもらったことでもあるしな」
「それがいいよ。お爺さん、農業のこと、いろいろ教えてね」
「兄ちゃん、このヒエとアワ、持って行ってよ。
 ちょっとしかないけどさ。」
「兄ちゃん、帰ってきてよ!」
「兄ちゃん、元気でね!」
「ううう…みんなありがとう」

「さよーならー」
「さよーならー」

 そんな様子を一部始終、こっそり見ていた者があった。



 城の陰で、誰かと連絡を取っている。
「お師匠様!乗の秘宝がワンダーランドに向けて動き始めました」
「そうか。やはりセキタ王国にあったか。では作戦Aを実行せよ」
「了解!」
 果たして彼らは何者か…?

 そんな事も知らず、かけるは北の国を目指して歩いていく。